top of page

ジョニーは戦場へ行った

May 6, 2018(SAW-SEKI)

衝撃的な反戦映画

 原題:Johnny got his gun/1971年、アメリカ映画

 

 

 監督は、『パピヨン』、『ダラスの熱い日』などの政治色濃い映画の脚本家ダルトン・トランボ。監督作品は意外にも今作のみ。本人が反戦の意味を込めて書いた小説を自ら映画化したものです。原題は『ジョニーは銃をとった』

 主演は『ラスト・ショー』、『ラスト・ショー2』のティモシー・ボトムズ。本作が映画デビュー作となります。なかなか強烈な役でデビューなんですね。

 

 

 

 共演はキャシー・フィールズ。主な出演は本作のみ。

 確か初見は小学四年生のときでした。反戦映画の部類に入るのでしょうが、なんとも衝撃的な作品です。全人類に観て欲しい作品です。

 

 

 

 

 

個人的に元祖後味悪い映画

 まずは、昭和感たっぷりのオープニングです。モノクロの実際のニュース映像が流れる中の長めのクレジットが緊張感を高めてくれます。すると突然の真っ暗なシーン。吐息の音だけが約30秒も続きます。観客はびっくりでしょう。

 

 映画中の30秒の真っ黒は結構な長さです。しかし、この真っ黒なシーンもとても重要な意味があるのですね。なぜなら、これが主人公ジョニーの世界だから。

 

 その暗闇の中に突然のセリフ「素早かったな」「医療チームが待ち構えていました」と。そして、三人の医師が取り囲むシーン「胸と腹は無事です」

 

 「身元は?」「不明です」「我々が引き取ろう……責任は私が持つ……こんな研究材料のためなら時間など惜しくない」……恐ろしい会話ですね。

 

 脳の中で唯一延髄だけが損傷を免れ、心肺などの中枢は機能し続けている……つまり生きている。戦争で大きな被害を受けながらも生存した一人の若者を“研究材料”として生かしておくのですね。恐ろしい……。

 

 彼は身元不明の負傷兵407号として隔離施設に収容されます。他の患者を助けるために彼を生かすことを大義とし正当化します。隔離室に運ばれ照明を消された真っ暗な空間は、彼の意識をも表わしているのでしょう。そして、また長い暗闇のシーン。

 

 その暗闇の中での思考『カリーン?』……彼は自分の身に何が起きたか分かっていない。医師たちは、大脳に損傷を受けた彼には思考がないと思っている。しかし、彼には思考があったのです。

 

 『ここはどこだ?』『暗い』……そして、恋人カリーンとの思い出が浮かびます。甘い記憶……そして、出征。記憶は更に飛び、雨の降る戦地で逃げ回るシーンとカリーンの姿が同時に流れます。ここは素敵なアイディアですね。人間の記憶って、同時に複数のことを思い浮かべることができるのです。

 

 そして、彼の元に爆弾が……。記憶は消えます。

 

 シーンは彼を乗せたベッドのある病室。窓から日が差し込む部屋です。しかし、彼はそれを知ることもできない。なぜなら、目も耳も失ってしまったから。彼は考えます。爆弾の直撃を受けたに違いない、と。

 

 そこに医師団が来ます。彼は足音の振動を感じ、誰かが来たことを察知します。しかし、話すこともできません。そして、時折思い返す戦争前に記憶。普通の映画であれば回想シーンはモノクロで、現在のシーンがカラーのはずなのですが、この映画の特徴は、記憶と思考のシーンがカラーで、現実のシーンはモノクロなのです。

 

 幸か不幸か、ジョニーには触感や痛覚が残っています。なので、医師団の治療に痛みを感じ戸惑います。何をされているのかが分からないのです。そして、手の感覚や脚の感覚がないことに気が付き、自分には四肢がなくなっていることに気が付きます。

 

 その心の叫びと医師団の会話がかぶるシーンが多用され、なんとも言えない切ない気持ちにさせられます。

 

 戦地に向かう駅での回想シーン。兵士たちがポーカーをやっている場面にドナルド・サザーランドが出演しているんですねぇ。知りませんでした。彼はなぜか風貌がキリストのようで、その風貌通り戦友からは“キリスト”と呼ばれています。というか、ここの兵士たちの会話のシーンも重い……自虐の域を越え、もう諦めムード満載なんです。

 

 っていうか、やっぱドナルド・サザーランドはオーラがあるなぁ。大スターになるべくオーラを感じます。そして、体がデカい!

 

 日が経つにつれ、ジョニーは自分に目、顎、舌がないことにも気が付きます。頭部を動かすだけのティモシー・ボトムズの迫真の演技に息を飲みます。小刻みに体を震えさせ、驚きと悲しみと絶望を表現するシーンに涙が出ます。

 

 太ったネズミに襲われるシーンが出てきます。しかし、ここはカラー、そう、ジョニーの思考、想像なのです。上手い構成ですね。

 

 やがて新しい看護婦が付きます。彼女はとても献身的で、ジョニーの体に文字を書くことでコミュニケーションを取ります。

 

 ジョニーの思考は時間とともに支離滅裂になっていきますが、夢? 幻? 思考? の中での亡くなった父親のアドバイスで、モールス信号を打つことを教わります。そうすることで、喋れなくても意思を伝えることができるのです。

 

 夢から覚めたジョニーは頭部でモールス信号を打ち始めます。献身的な新しい看護婦がそれに気付きます。そして、軍の幹部にモールス信号の意味が伝わります。それは、“SOS”=“助けて”!

 

 息を飲む幹部たち。幹部はジョニーの額にモールスを打ちます-“君の望みは何だ?” ジョニーは答えます-“僕は外に出たい” “カーニバルの見世物にしてくれ” “それができないなら、殺してくれ”と。もう、涙腺が崩壊しそうです。

 

 そして、繰り返します “Kill Me.” “Kill Me.” “Kill Me.”………

 

 幹部達が出ていった部屋。残った看護婦は、意を決し、ジョニーの呼吸器の管を塞ぐのです。しかし、幹部の一人が入ってきて、それを阻止します。そして、ジョニーは年老いてその時が来るまで苦しみながら生き続けなければならないのです……。

 

 う~む……言葉を失ってしまいますが、今生きているすべての人が観るべき映画とだけ、お伝えしたい。

bottom of page